2014年2月19日(水)、宇都宮市で交通とまちづくりに関するシンポジウム「まちづくりとLRT」が開催され、約380人が来場しました。
詳しくはこちら→ レスポンス 2014年2月20日報道
シンポジウムでは、宇都宮市が芳賀町と共同で導入するLRT(次世代型路面電車システム、軽量軌道交通)とまちづくりに関する講演とパネルディスカッションが行われました。
前半の基調講演は、フランスの交通とまちづくりに詳しく、『ストラスブールのまちづくり: トラムとにぎわいの地方都市』を執筆したビジネスコンサルタント、ヴァンソン藤井由実氏による「公共交通を導入したまちづくり・ストラスブールの事例」でした。
ストラスブールは、ドイツ国境に近いフランス東部に位置する地方都市で、人口48万人です。1994年にLRTを導入し、世界で初めて全ての編成が完全低床型LRV(ライト・レール・ヴィークル、LRT用の車両)だったことでも知られています。
フランスでは、現在までに28都市がLRTを導入しています。
その大半は、人口51万人の宇都宮市より規模が小さな自治体で、財政規模が大きいわけではありません。
ヴァンソン藤井氏は、ストラスブールと宇都宮の人口や街の規模などを比較して、両市に類似性があると指摘。ストラスブールでは中心市街地の道路空間にLRTを導入し、道路空間を公共交通や歩行者に再配分したことで、渋滞問題や環境問題を解消したことなどを説明しました。
フランスでLRT導入が成功している理由について、
(1)回遊性が高い「歩いて楽しいまちづくり」を実現したこと
(2)改札不要の信用乗車制や、バスと共通の運賃体系を導入し、乗り換えに配慮した停留所や結節点を整備したことで公共交通の利便性を高めたこと
(3)パーク&ライドや、中心市街地に住む住民に対するクルマ利用への配慮など、クルマとの共存を実現したこと
(4)LRT導入と同時に周辺エリアを整備することで、「LRTが走ると、まちがきれいになる」というイメージを醸成したこと
(5)自転車の利便性を向上するなど、LRTを補完するさまざまな施策を講じたこと
などを説明しました。
一方、日本でこれまでLRT導入が進んでこなかった理由について、
(1)行政がインフラを整備して民間が運行する「公設民営方式」が根付いていなかったこと
(2)バスやタクシーなど他の交通機関との整合性を図る「運輸連合」が作りにくかったこと
(3)公共交通は独立採算という意識が根強く、「赤字」だと廃止という風潮が根強かったこと
(4)急速に超高齢化が進行しているのに、過度なクルマ社会からの脱却を図ろうという危機意識が低いこと
(5)日本でのLRT整備は複数の法律にまたがるため、手続きを進めることが難しかったこと
などを挙げました。
後半のパネルディスカッションは、宇都宮大学大学院の森本章倫教授がコーディネーターを務め、ヴァンソン藤井氏、宇都宮市の荒川辰雄副市長、宇都宮美術館の橋本優子主任学芸員がパネリストとして発言しました。
荒川副市長は、これまでのLRT計画の推移と、今後の展開やスケジュールについて説明しました。
今年3月にLRT予定ルート沿線にある企業や団体への従業者アンケート調査を実施。夏には宇都宮都市圏の交通実態調査を実施して、都市計画を決定し、軌道事業特許取得、工事施工認可を受ける予定です。
その後、2016年度までに着工して、2019年度までの開通を目指しています。
橋本主任学芸員は、移動や交通、都市環境について、デザインの重要性を強調。
移動には、自転車やマイカーなどの「パーソナルモビリティ」と、鉄道やLRT、バスなどの「公共交通」、医療や防衛などの「特殊交通」があって、それらの共存と棲み分けが重要。素晴らしいモビリティを実現するためには、多様さと地域色があって、過去・現在・未来につながる普遍的で持続的なデザインが望ましいと説明しました。
ヴァンソン藤井氏は、今後日本で必要なことについて、魅力ある交通手段を整備することの重要性を強調しました。
フランスは地続きで他国と接するため都市間競争が熾烈で、便利でなければ他都市との競争で不利になります。ストラスブールでのLRT整備は、交通の利便性を高めて都市間競争で有利に立つという戦略があったと説明。
そのうえで、日本では今後人口が減少していくからこそ、交通が便利で住みやすい都市に人が集まっていく傾向が強まるとして、必要な交通手段を整備して利便性を高めて「プラスのスパイラル」を生み出さなければ、状況は悪化していくと説明しました。
森本教授は、日本では路面電車や地下鉄など都市内交通が機能している都市は人口が減りにくく、路面電車や地下鉄などが整備されていない都市では激しい人口減少が起きている実状を紹介。
今の世代がどんなインフラを整備して将来に残していくかが、次の世代に大きな影響を及ぼすことになると発言しました。
ヴァンソン藤井氏は、宇都宮でのLRT整備に向けて準備や市民向けの説明が着々と進んでいることを評価したうえで、今後は事業主体の立ち上げが重要になると指摘。
これに対して荒川副市長は、富山ライトレールのような官民共同の運行主体の新設や、公募による民間事業者の選定など、さまざまな選択肢を想定していて、近々大きな方向性を定めて決めていきたいと説明しました。